【見るのとやるのは違うのか? 〜アートと健康のあいだ〜】
- a05m100
- 3 日前
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先日、友人から手彫りの消しゴムハンコをいただきました。可愛らしい図柄に目を奪われ、「すごいねぇ」と眺めていたのですが、ふと気づいたことがあります。
「アートを“見る”のと、“やる”のって、何が違うんだろう?」
医療に携わる仕事柄、「健康」と「生活の質(QOL)」について考える機会は多いのですが、この問いは思った以上に深く、今でも心の中で転がり続けています。
見るアートの力:癒しと気づき
美術館で絵を見る。音楽を聴く。ダンスパフォーマンスに拍手を送る。私たちはアートを「鑑賞する」ことで、心を癒されたり、気分がリセットされたりする体験を持っていると思います。
実際、イギリスや北欧では「アートを処方する医師」も存在し、患者さんに芸術鑑賞を勧めることがあるそうです。WHO(世界保健機関)も2019年に、「アートは心身の健康促進に効果がある」と公式に報告しています。
やるアートの力:動かす、つながる、取り戻す
一方で、アートを「やる」こと——つまり自分の手を使って作る・表現することには、また別の力があります。
たとえば、先ほどの消しゴムアート。彫刻刀を持ち、集中して彫っていく作業は、細かな指先の動きと、頭の中のイメージを形にする力の両方が必要です。これは、まさに作業療法(OT)やリハビリと重なる部分です。
指先を動かすことで、神経と筋肉の連携が促される
「できた」という体験が、自信や自己肯定感につながる
作品を人に見せたり贈ったりすることで、社会との関わりが生まれる
実際に、認知症ケアや精神疾患のリハビリプログラムでも、絵画や彫刻、手芸などのアート活動が取り入れられています。「手を動かすこと」と「心が動くこと」には、密接な関係があるのです。
医療とアートの交差点
私は訪問診療医として日々、患者さんの「暮らし」を見る中で、治療だけでは補いきれない「心の満たされ方」に直面します。
痛みが完全になくならなくても、病気が治らなくても、「今日はこれができた」と言える日があるかどうか。
その支えになるものの一つとして、アートという選択肢があると感じます。それは医療者にも、患者さんにも、家族にも、大切な“道しるべ”になると感じています。
まとめ:あなたにとっての「やるアート」とは?
見るアートには「気づき」や「感動」があり、やるアートには「再発見」や「回復の感触」がある。
どちらがいいとか悪いとかではなく、役割が違うんだと思います。そして、そのどちらも、健康と生きる力に寄り添うものです。
もしかしたら、何気なく手にしたペンや彫刻刀が、心や体を整える新しいリハビリの一歩になるかもしれません。


🧠 参考資料:
WHO. (2019). What is the evidence on the role of the arts in improving health and well-being?
Staricoff, R. (2004). Arts in Health: A Review of the Medical Literature.
Camic & Chatterjee (2013). Museums and art therapy: Exploring health and well-being benefits.
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